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高松高等裁判所 昭和43年(ネ)290号 判決

控訴人 伴ノ内猛

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 島崎鋭次郎

被控訴人 興津漁業協同組合

右代表者理事 武政千代蔵

右訴訟代理人弁護士 土田嘉平

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら訴訟代理人は「原判決を取消す。控訴人両名はいずれも被控訴人の正組合員であることを確認する。被控訴人は控訴人両名に対しそれぞれ金六二万円を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決並びに右金員支払部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は、次の点を付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにその記載を引用する。

≪中略≫

(控訴人らの主張)

被控訴人主張の臨時総会における除名決議なるものは、そもそも存在しない。すなわち、右臨時総会において控訴人らに対する除名決議がなされた事実はないのみならず、仮りにさような決議がなされたとしても、その決議は、被控訴人自身が、脱退申出に対する承認の決議であっていわゆる除名決議ではない旨を主張する程その内容のあいまいな決議であり、しかも控訴人ら並びに組合員に対しその議案の予告などの正規な手続をふむことなしに、従って違法、無効を自から承知しながらあえて被控訴人がなした決議であるから、それは単なる無効決議というにとどまらず、決議として不存在というべきものである。従って、控訴人らは本訴請求原因として先ず、右除名決議の不存在を主張するものであり、原判決事実摘示の請求原因(二)ないし(四)に記載の事項は、右決議不存在の事由の主張であるが、仮りに右決議がその存在を認められるとすれば、その場合には、同事項を右決議の無効事由として主張するものである。

(被控訴人の主張)

(一) 控訴人らに対する本件除名決議の存在は当然認められるべきものである。もっとも被控訴人は従前、右決議は組合脱退の意思表示に対する承認決議の実質、内容のものであると陳述しているが、これは、右決議に多少の瑕疵がある点に鑑み、除名決議としての効力が認められない場合のあることを慮り、仮定的な主張として陳述したにとどまり、右決議の内容ないし存在のあいまいさを認めたものではない。

(二) 本件除名決議はいささかの瑕疵は存在するが、しかしそれは単に手続上の瑕疵にすぎないものであり、他方その決議の内容においては何らの瑕疵も認められず、控訴人らの本件行為は正に被控訴人組合の定款一五条一項四号所定の除名事由に該当するものであるから、本件は、水産業協同組合法一二五条の規定の趣旨に徴し、控訴人らが先ず行政庁に対して決議取消請求をなすべき事項で、従ってその手続を経ることなしに裁判所に対し直接判断を求めることが許されない事項を前提問題とするものである。本訴請求はこの点においても失当である。

(証拠)≪省略≫

理由

一  控訴人ら主張の事実中、控訴人ら両名がいずれも当時被控訴人の組合員であったが、昭和四二年七月二一日被控訴人の臨時総会が開催されたこと、その際本件除名決議については、その議案が、被控訴人からあらかじめ組合員に対して通知されなかった事実があるのみならず、除名される当の控訴人ら両名に対しても右総会の日一週間前までに除名決議をする旨の通知がなされなかった事実があることは当事者間に争いがない。

二  (一) ≪証拠省略≫を綜合すると、右臨時総会において被控訴人主張の本件除名決議がなされたこと、そしてその性格は正に被控訴人組合定款所定の組合員に対する除名の議決であること、その決議のなされるに至った経緯としては、原判決事実摘示の被控訴人の主張の項中、(一)(原告両名を除名するに至った経緯)の(2)(但し「昭和三十八年八月頃」とある「八月」、「浜崎才次」とある「才次」をそれぞれ削る)、(4)(但し「伴ノ内進」とあるを「伴之内進」と訂正すること前記のとおり)、(5)(但し「伴ノ内理事」を「伴之内理事と訂正)、(6)(但し冒頭の「同月十八日、被告組合役員二十二名の内十九名が打ち連れて高知市に出張し」とあるを「同月十八日、被告組合長を含む役員ほか計二十名位が打ち連れて高知市に出張し」と訂正し、又末尾の「被告組合の前監事橋本に対し」から「不正はないと言明した。」までの部分を削り、その代りに「当時の組合監事の監査結果の報告を求めたところ、組合長に組合公金不正使用の事実はないとの報告がなされた。」を加える)、(7)(但し「何らの回答は得られず」とあるを「明確な回答が得られなかった。」と訂正し、「ただ原告松下が」以下の部分を削る)、(8)(但し「役員会は同日、」以下の部分を「役員会は同日、明二十一日総会を開いてその調査結果及び経過を報告することに決定した。」と訂正する)の各事実並びに同(二)(臨時総会の内容)の(1)(但し「翌二十一日午時七時半頃」とあるを翌「二十一日朝」と訂正する)、(2)、(3)(但し「立石敏男議長が」とあるを「山中議長が」と訂正し、「原告両名の今回の行動によって組合としても多大の出費を余儀なくされたが」とあるを削る)、(4)(但し「議事を一時小休止し」の直後に「たが、その前に山中」の字句を加え、又「再開後の総会で返事するよう前後三回にわたり促したが奇意なことに」とあるを「再開後の総会で返事するようにと注意し、再開後において前後二回位も促したが」と訂正し、「全員一致で」とあるを「殆んど全員一致に近い大多数で」と訂正する)の各事実があることが認定でき(る。)≪証拠判断省略≫

なお、被控訴人組合長の組合公金不正使用、その他不正、不当な業務執行の事実を推測できる証拠は、本件の全証拠を検討しても見当らない。

(二) 次に、≪証拠省略≫を綜合すると、原判決事実摘示被控訴人の主張の項中(一)(原告両名を除名するに至った経緯)の(3)(但し「組合からの漁業資材貸付金、購買代金等の返済を」とあるを「組合からの貸付金等の返済を」と訂正し、「二年前の同様の資材代金貸付分すら返済していないのに、更に新たに貸付けるわけにはいかないと」及び「組合長は原告伴ノ内にはすでに換装資金として十三万円余りを貸付けており外にも六万円余りの貸付金が未済となっているから、貸付けるわけにはいかないと」とあるを削る)の事実が認定でき(る。)≪証拠判断省略≫

三  以上認定の各事実に≪証拠省略≫をあわせて考察すると、

(一)  控訴人ら両名の被控訴人組合長に対する行為は、被控訴人の利益を図り、その健全な発展を期するなど正当な目的のため行なわれたものとはとうてい認められず、主として私欲ないしは私的な感情から、組合長個人の失脚をはかる意図に出たものであり、しかもそれは、ひとり組合長個人の信用にとどまらず、ひいては被控訴人組合自体の業務執行に対し不信、疑惑の念をいだかせるに足るものであると認めらるれが、かかる行為は、水産業協同組合法二七条二項三号、被控訴人組合定款一五条一項四号の除名事由(組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとき)に該当するものというべきである。従って、本件除名決議が何らの除名事由もないのになされた決議である旨の控訴人らの主張は、とうてい採用できないものであり、その議決内容の点において何らの瑕疵はないものというべきである。

(二)  しかし、右定款一五条によれば「組合員除名の議決をする場合には、総会の会日から一週間前までにその組合員に対してその旨を通知しなければならない」と規定され、又同四三条によれば総会では、「あらかじめ通知した事項に限って議決するものとする」と規定されいて、これらの規定はいわゆる強行規定であると解されるのであるが、前記のとおり、本件除名決議については、その議案があらかじめ組合員及び控訴人らのいずれに対しても通知されていないのであるから、その議決の手続は、右定款の規定に違反し、瑕疵があるものというべきである。もっとも控訴人らは、議決の手続に関して、除名決議の議案が提出された事実がなく、更に控訴人らに対して弁明の機会が与えられなかった瑕疵もある旨を主張するが、この主張にそう≪証拠省略≫はたやすく措信できないし、他にこの主張事実を認めるに足る証拠がない。かえって≪証拠省略≫並びに前記認定の本件除名決議のなされるに至った経緯に徴すると、控訴人両名の除名が議案として前記総会に提出され、審議されたことは明らかであり、又控訴人らが右総会における審議の過程において弁明の機会を十分に与えられながらそれを活用する態度に出なかったものであることも十分に認定できるので、この点の控訴人らの主張は採用できない。

四  本訴請求は、本件除名決議の不存在ないしは無効を前提とする請求であるが、被控訴人は、この前提問題を裁判所が判断できない旨を主張するので、ここで水産業協同組合法一二五条の規定の趣旨について検討する。右規定が組合の目的、性格、組合事業の性質などの点に鑑み、組合の内部的紛争である総会の議決等の効力の存否については、その確定の方策として直接裁判所の介入を認めるよりも、先ず組合の実情に通じている監督行政庁をして合目的かつ迅速な措置を講じさせる方がむしろ望ましいとの配慮から設けられた規定であると解されることと、更に右組合法中には、右紛争に対処する手段として単に右一二五条の規定があるだけで、別に商法二四七条あるいは二五二条のような直接裁判所に対する出訴の規定が設けられていない点を考えあわせると、組合総会の招集手続、議決の方法などに法令、定款等に違反する瑕疵があるにすぎない場合は、右一二五の規定に則り、先ず行政庁に対しその救済を求めるべきであり、その手続を経ることなしに直接裁判所に対し議決取消の訴を提起することができないのは勿論、これらの瑕疵を前提問題として裁判所の断判を求めることも許されないところというべきである。しかしながら、議決の内容に瑕疵があって議決が当然無効の場合及び議決の手続、内容いずれの瑕疵であるかを問わず、瑕疵の性質、程度が重大であって議決が不存在の場合については、右規定は何らの定めをしていないものと解されるので、これらの場合に限り、しかもこれらが現在の法律関係に影響を及ぼす限りにおいて、一般原則に従い、直接裁判所に対し訴を提起し、右無効又は不存在を前提問題として裁判所の断判を求めることは当然許されるところと解するのが相当である。

そこで本件の場合について検討するが、本件決議には手続上の瑕疵(通知の欠缺)は認められるが、その内容の点では何らの瑕疵もないこと前記のとおりであるところ、先ず控訴人らの決議無効の主張は、手続上の瑕疵に関するものであるから、前提問題として裁判所が判断することを許されない事項につき判断を求めるものであって採用できないものというべきである。そこで進んで、瑕疵が果して本件決議を不存在とするに足るほど重大な瑕疵というべきものであるかの点について次に検討する。ところで本件決議については、右手続上の瑕疵があるにもかかわらず、≪証拠省略≫によれば、当時の被控訴人の組合員の総数二七二名(もっとも議決権のある正組合員数は二三二名)中、前記臨時総会の当日出席した組合員は一七八名(但し正組合員は一六三名)で、かなり多数の組合員が参集していて、組合員除名決議のための定足数(正組合員の二分の一)に欠けた点はなく、しかも本件除名決議は、すでに認定したように(二の(一)の項)、出席組合員の殆んど全員一致に近い大多数の賛成でなされた議決であるから、除名決議のため必要な議決数(出席した正組合員の三分の二)も十分であった事実が認められる(この結果、定款所定の正規の通知手続をふみ、更めて正組合員全員の参集を求めて新決議を行なった場合でも、控訴人ら除名の結論に変動が生ずるものとはとうてい認められない事態にある)こと、及び本件決議のなされるに至った経緯としてすでに認定した各事実、殊にその決議が右総会の席上における控訴人ら自身からの除名の申出に応じてなされるに至ったものである事情、更に≪証拠省略≫により、右総会の出席組合員からは通知の欠缺、控訴人両名に対する除名議案の提出、審議につき格別異議の申出などがなされた形跡もなく議事が進行し、議決がなされる至ったものであることがうかがえることなどの諸事情に鑑みると、本件除名決議の瑕疵が強行規定違反にある点を考慮に入れても、それが右決議を組合の議決として存在しないものとするほど重大な瑕疵であると認めることは困難というべきである。従ってこの点の控訴人らの主張も採用できないものというべきである。

五  以上の次第で、控訴人ら主張の本件除名決議の瑕疵が、決議無効の事由としては本訴において直接前提問題として判定できない事項に属するものであるし、又その性質、程度の点において決議を不存在とするに足るほどの瑕疵とはいえないものである以上、右除名決議の無効あるいは不存在を前提とする控訴人らの組合員資格存在の確認請求はその前提を欠き、又右決議及びそれに伴う被控訴人の措置が不法行為であることを根拠とする控訴人らの損害賠償の請求も結局その根拠を失い、いずれもこれを認容するに由ないものというべきである。従って控訴人らの請求をすべて失当として棄却した原判決は相当であって、本件各控訴はいずれも理由がないので、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法八九条、九三条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 合田徳太郎 裁判官 谷水益繁 林義一)

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